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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

一年振りの至福

にしのももこ

 

 一年間、はちみつを封印した。甘いものに目がなく、毎朝のはちみつヨーグルトが定番だった私が。
 きっかけは、長男の妊娠だった。子育ての予習と思い目を通した育児雑誌に、「赤ちゃんには一歳まで、はちみつをあげるのは厳禁!」とあり、無知だった私は目を丸くした。
 母親0年生の私には、他にも知らないことばかりだった。赤ちゃんの洗濯物は大人の分と分けて洗うことも、大人の口で食事をフーフー冷ましてしまうと虫歯菌がうつってしまうことも。本当にみんな、そこまで徹底しているの?と思ってしまうような、未知の情報ばかりだった。
 ひとまず、はちみつの件だけは守らねばならない。戸棚の奥深くにはちみつの瓶を押し込み、夫が間違って子供に与えてしまわないよう「一歳まで禁止」と赤字で貼り紙をした。

 子供が無事産まれてからも、情報の渦に踊らされた。遠い実家の母よりも、まず頼れるのは手元のスマホ。自分と同じ、人間という生き物を育てているはずなのに、分からないこと、不安になることだらけだった。
 あんなに大好きだったはちみつさえ、今は恐ろしいものに感じた。もし万が一、子供の口に入ったらと思うと、戸棚の奥を開ける気にはなれなかった。それくらい、母親一年生の育児は慎重で、息が休まらなかった。

 やっと肩の力が抜けてきたのは、子供が一歳を過ぎたころだっただろうか。
 一年間、無事育て切った。もう、初めて訪れる季節はない。夏のあせもに慌てることも、冬のお風呂の寒さに気をもむことも、もう初めてではなくなる。
 それだけで少し子育てに自信がつき、思い切って子供を連れて家族旅行に出掛けることにした。

 朝食に、洋食のプレートが運ばれてきた。ヨーグルトに添えられていたのは、銀製の小さな小さなピッチャー。それは、光に当たったときの子の柔らかな髪と同じ、黄金色のはちみつだった。
 わざと高くからヨーグルトに向けて垂らすと、子供の目が上目遣いにきらきらと輝いた。これも子を持って初めて知ったことだが、なにかにときめく子供の瞳は、ただただ美しい。
 息子にも一口やると、まだ話せない息子は、机をバンバンと叩いておかわりを求めた。でも、少しだけ待ってもらおう。お母さんも、一年ぶりのはちみつを味わいたいのだ。
 ああ、甘い。美味しい。
 旅先の朝食会場で、私は思わず涙ぐみそうになった。久しぶりのはちみつが、育児にひた走り凝り固まった心を、甘くほどいていくかのようだった。

 家に帰ったら、戸棚の奥のはちみつの瓶を久しぶりに出そう。これからは、思う存分使おうじゃないか。
 子育てはまだまだ続く。自分だけは、自分に甘くしてあげよう。
 子供と一緒に、はちみつを楽しみながら。

 

(完)

 

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